6.小学校の英語教育
学習しない英語学習
 新学習指導要領の中に 「総合的な学習の時間」 が設けられ,公立小学校では2002 年度から英語教育を実施することになった。これに関連して,外国語指導助手 ALT (Assistant Language Teacher) を大量に導入する予定であるという。どの程度 「大量」 なのかは不明であるが,結構な話である。しかし,その実施方法については,まだ具体策は示されてはおらず,関係者の今後の検討結果に委ねられている。
子供は発音の天才
 神経学者ペンフィールド(Wilder Penfield)によれば,子供は,10 歳から12 歳くらいまでは,外国語学習最適期であり,複数の外国語を学習しても問題なく習得できるという。これに対する異論もないではないが,子供は少なくとも発音に関しては有利のようである。大人ならば四苦八苦してもできない発音をいとも簡単に真似ることができる。ネイティブ・スピーカー並みの発音に驚かされることもしばしばである。したがって,この時期に,ALT などネイティブスピーカーの話す英語を十分に聞かせることは,子供にとっては非常なプラスであり,後の学習に対する好影響も計り知れない。このように発音に敏感で,習得も速いこの時期の子供の特性を考えると,ネイティブスピーカーによる英語だけの指導が望ましい。日本人指導者は特に必要とはしない。指導内容は,遊びを中心とした生活英語にとどめるべきであろう。
2つの導入時期
 小学校の英語教育導入の時期については2つ考えられる。1つは1年から3年までの前期であり,2つ目は4年から6年までの後期である。
 小学校前期の学年では,文法などの言語構造を論理的に教えようとしても子供には理解できず,また関心も示さない。結果的に,この時期の英語教育の目標は,絶えず生きた英語のシャワーを子供に浴びさせることとなる。これに対して,後期の英語教育は,ペンフィールドによれば,言語学習最適期が過ぎた 10 歳以降-小学校4年以降-の英語教育に当たる。この時期には,生徒は言語学習を素直に受け止めることができないようになり,学校の勉強と考えるようになる。このような状態に合わせるためには,多少論理的な要素を加味した,より中学英語に近いアプローチのほうが適していると思われる。
口頭英語を導入するなら早い時期に
 小学校の英語教育を中学英語の前倒しではなく,独自の意義を持たせるためには,口頭英語をそのまま素直に受け入れることのできる学年,つまり小学校前期に英語教育を導入するのが効果的である。しかもできる限り早い時期のほうが,いっそう素直に英語を受け入れることができる。たとえば,1・2年生を対象にした英語教育であれば,放っておいても,文法などの論理を中心とした英語教育に流れる恐れはまずない。習う側も,教える側もその気にはならないし,たとえその気になったとしても,この年代では実行が難しいからである。ところが3年生になると,多少事情が変わってくる。人見知りが次第に激しくなり,以前のように学習に素直に溶け込めにくくなるからである。これよりさらに後の小学校後期に英語教育を導入した場合には,中学英語の先取り的な性格がかなり強くなる。したがって,中学英語の予備学習期間として導入するなら別であるが,小学校独自の英語教育としては疑問が残る。中途半端になりやすいので,この時期の導入は避けたほうが無難であろう。
コミュニケーションを中心とし,成績はつけない
 最後に考慮しなければならない問題は評価である。そもそも言語教育は,原則的には,他の教科のように成績をつけて,だれが上で,だれが下だと序列を決めるべきものではない。特に,言語学習 (language learning) ではなく,言語習得 (language acquisition) を目指す場合には問題である。成績をつけることは生徒間の競争をあおり,自然な言語習得を妨げる原因ともなる。さらに,知識英語へ追いやることにもつながり,本来の目的からも大きく外れることとなる。小学校英語教育はコミュニケーションを中心としたものでなければならない。教えはするが,成績はつけない。英語は手段であり,道具だということを生徒に感覚的に理解させることが,この時期の英語教育の最重要課題である。

[ 前ページ | トップ | 次ページ ]