11.TOEICに関する誤解(5)
パート・スコアが分かれば学習者の弱点が把握できるか
TOEIC は7つパートから成る
 TOEIC は英語能力をトータル・スコア(Total Score)で示し,トータル・スコアはリスニングとリーディングの2つのセクション・スコア(Section Score)から成る。さらに,リスニングは4種類,リーディングは3種類,計7種類のパート(Part)から成り立っている。その関係は次のようになる。

トータル・スコア リスニング・  スコア 写真描写問題(one picture) 10問
応答問題(question-response) 30問
会話問題(short conversation) 30問
説明文問題(short talks) 30問
リーディング・スコア 短文穴埋め問題(incomplete sentences) 40問
長文穴埋め問題(text completion) 12問
読解問題(reading comprehension) 48問

 多くの場合,TOEIC で問題になるのはトータル・スコアである。これは TOEIC の姉妹プログラムである TOEFL の場合も同様である。と言うよりは,TOEFL はトータル・スコア以外が話題になることはない。なぜなら,受験者にとって必要なのは希望大学の要求する TOEFL 合格スコアだけだからである。しかし,TOEIC は TOEFL のように合格・不合格が目的となる場合は少ない。個人として受験するときは自分の英語能力を知るためであり,企業が社員に受験させるときは英語学習に対する動機づけが目的である場合が多い。ここに TOEIC の大きな特徴がある。TOEIC は英語能力テスト(proficiency test)としてだけでなく,英語学習に対するガイドラインとして利用される傾向がある。
診断テストとは
 受験者の弱点を指摘し,今後の学習のガイドラインにするというのは,TOEIC を診断テスト(diagnostic test)として使いたいという希望の現れでもある。診断テストとして使うためには,トータル・スコア,セクション・スコアだけでは物足りない。さらに下位区分であるパート・スコアが欲しくなる。それでは,パート・スコアを受験者に示せば,学習者にとって弱点が明確になり,今後の学習に非常に役に立つのであろうか?その答えはノーである。
 診断テストというのは,何が長所で,何が弱点かを示すものである。しかし,問題なのは,上記の7種類のパートは何をテストしているかということである。リスニングについて言うと,前半の2種類の問題はやさしいリスニング総合問題であり,後半の2種類の問題は難しいリスニング総合問題である。リスニングの個別の特性を検査しているわけではない。たとえば,発音の識別,イントネーション,スピード,意味の理解などについては具体的に何も示していない。示しているのは能力レベル差だけである。これでは診断テストとしての機能を果たすことはできない。
 リーディングの場合も同様である。文法語彙問題でも,問題形式は文法と語彙に関するものであるが,それでは読解問題は文法と語彙には無関係かというと,そうではない。両者の問題はお互いに密接に関係し合っている。あえて識別をすれば,誤文訂正問題は理解能力(comprehension)ではなく,表現能力(production),つまりライティングに傾いた問題であると言うことができよう。いずれにしても,受験者の長所・弱点を具体的に指摘する診断テストとして利用するには物足りない。
TOEIC は英語能力テストである
 リスニングの場合でも,リーディングの場合でも,TOEIC の パート・スコアは,厳密な意味での診断テストにはなり得ない。TOEIC は英語能力テストであり,それを完成させるために,それぞれのパートは総合されて,それぞれのセクション・スコアとなるように仕組まれている。したがって,これ以上スコアの内容を細分化すると,かえってテストの信頼性を失うことになる。そのため,TOEIC はパート・スコアを公示しない。英語能力テストと診断テストは互いに異なったテストであることを理解しなければならない。
TOEICスコアの読み方
スコア表示のテストシステムは,複雑な評価が可能
 TOEIC は他のテストのように合格・不合格による評価を行わないので,今ひとつピンとこないところがあるはずである。TOEIC のように,スコアを使って英語能力評価を行うことは,評価の単純さという点では合格・不合格評価より劣るが,より複雑な評価を行う場合には,その威力を発揮する。TOEIC スコアの読み方,解釈の仕方に対する多少の知識が必要になるのはそのためである。ここで TOEIC スコアの読み方と,スコアを使っているために,さまざまの情報を得られることの1例を挙げてみよう。
公開テストのデータから
 次に示した表は,Data and Analysis(第1回~第 73 回テスト総合結果,TOEIC 運営委員会発行)と TOEIC Newsletter(2000's Newcomers,TOEIC 運営委員会発行)からの引用である。公開テスト(SP)とは Secure Program のことで,一般の人が受験する公式テストのことである。また,団体一括テスト(IP)とは Institutional Program のことで,企業・学校などの場で行われるテストである。IP のテスト問題は,過去の SP で用いられたテスト問題を再使用したものであるが,これらはすべて未公開であるので,普通に利用される場合には特に問題ない。TOEIC-SP 受験者は自らの意志で受験するので,自分の英語力にある程度自信があるか,関心を持っている場合が多い。したがって,自分の意志とは無関係に,受験を強制される TOEIC-IP 受験者よりもスコアが高くなる傾向がある。人数的に言うと,TOEIC-SP 受験者のうち 20 歳~39 歳の年齢層は,全体の累積受験者数 1,808,698 の 88 %に相当し,この層が圧倒的に多い。したがって,TOEIC スコアはこの年齢層の英語能力を強く反映している。その中でも,特に 20 歳~ 29 歳の 20 代は全体の 68 %を占めている。
 表で示した順序は,全受験者のトータル・スコアを,受験者の条件に応じて,高い順から並べたものである。

 
受験者数
公開テスト(SP)
     
海外生活経験者
295,040
393
319
712
海外生活未経験者
1,513,658
286
248
534
団体一括テスト(IP)
     
2000 年度大卒新入社員
36,985
239
211
450
受験者総数
4,022,461
233
200
433

 海外生活経験者とは,この場合,6か月以上英語圏で英語を日常使って生活した経験のある人々を示す。そのような経歴を持っていることを考えると,この層が 700 以上の高スコアをとることは十分予想されることである。この人々が海外生活未経験者と比べると,200 近くのスコア差をつけていることは納得できるところである。しかし,これらの海外生活未経験受験者であっても,もともと自分の英語力にある程度自信のある TOEIC-SP 受験者は TOEIC-IP 受験者よりスコアが高い。データもこれを裏書して,100近くもスコアが上回っている。
リスニングセクションとリーディングセクションの差でスコアを見る
 これら4つのグループに共通して言えることは,すべての場合に L と R との間の関係は,L≧R の正常パターンを示していることである。これとまったく逆の L≦R パターンは,大学受験勉強に専念し過ぎたために起こることの多い文字英語中心タイプであり,文字英語の能力レベルが高いか,またはむしろ文字英語に対して,音声英語の能力レベルが異常に低いことを示している。L≧R の正常パターンに対して,異常パターンとでも言うべきものである。しかし,この異常パターンは,上表のいずれの場合にも見られない。これは一般的には,L≧R が主流であって,大学受験色の強い L≦R のパターンは少数派であることを示している。
 この異常パターンを正常化するためには,大学受験科目にリスニングを導入することが有意義な方法であると思われる。これにより,音声英語と文字英語のバランスをとることができるからである。しかし,リスニング・テストを大学入試に導入する場合には,選抜試験ではなく,資格試験の性質を持たせるべきである。選抜試験にすると,奇をてらった,重箱の隅をつつくような無意味な問題が頻出するようになるからである。

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