カリフォルニアの青い空 ― 38.フランク・シナトラ邸への花の配達

 私が住んだ南カリフォルニアのCoachella Valley というところは砂漠なのだが、水が豊富だった。なぜか?

 下の写真のように、Coachella Valley の多くの地域が海面下なのである。Indio というのは、私が住んだ町である。「マイナス13フィート(約海面下4メートル)である。

 海面下にあるためか地下水が豊富で、農地の灌漑だけでなく、ゴルフ場、民家の庭の散水などが、地下水で賄われている。なので、砂漠の町でありながら、緑が多いところである。

 ゴルフ場が多いので、ゴルフをして週末や休日を過ごすセレブの別荘があちらこちらにある。

 若い人たちには馴染みのない名前だろうが、昔の有名どころでは、William Holden, Bob Hope, Frank Sinatra たちが、それはすごい豪邸に住んでいた。彼らは当時すでに引退したような立場だったので、別荘ではなく「住居」だった。
 ロサンゼルスやハリウッドでの仕事の折りには、Palm Springs の飛行場から自家用機で通えばいいのである。車を使えば2時間以上かかるが、小型機だと20分ほどで行ける。

 花の配達をしていたある日、フランク・シナトラ邸に遊びに来ていたサミー・デイヴィス Jr. 宛てに、誰かから生け花のプレゼントがあった。年配の人たちは、サミー・デイヴィス Jr. は、サントリーのウィスキーのコマーシャルで覚えておられることだろう。

 「誰が配達に行くか?」 と言われたとき、私は真っ先に手を挙げた。そして、その権利を得た。

 フランク・シナトラ邸に行くのは初めてだった。もっとも、その後に行く機会は来なかったが。

 門の前に車を停め、大きな門に近づくと、門にしつらえられたスピーカーから Who is it? と音声が流れる。もう、その当時(1977年)から防犯カメラが取り付けてあったのだ。
 どこにマイクがあるか分からなかったが、私は門に向かって 「花の配達に来た(I’ve brought flowers.)」 と叫んだ。

 すると、ドアが自動 (たぶん) で内側に向かって開き、中から、腰に拳銃を下げた男が Come in. と言った。そして、Follow me. と言って、歩き始めた。

 門を入ってすぐ右に20数台が停められる駐車スペースがあり、私が見たとき、ロールスロイスが4台ほど、メルセデスベンツやアメリカのキャデラックやサンダーバードなどの高級車が10数台並んでいた。

 その高級車の横を過ぎて建物に向かって歩きながら、そのガードマンに、「この花はサミー・デイヴィスさん宛てです。サミーさんのサインをもらいたいのですが」と言ったところ、「あ、サミーは今ゴルフに出ていていないよ。サミーのカミさんならいるけど、彼女のサインでいいか?」と言われた。

 そのとき「いや、だったらいいです、どなたのサインでも」と言ってしまった。厨房にいた 執事のサインをもらって帰ってきた。

 今では、後悔している。今考えると、サミー・デイヴィス Jr. の奥さんのサインでも、持っていると十分に自慢できたと思うのだが。

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