子豚の切腹哀話

 ♪ 夏が来れば思い出す はるかな尾瀬 ではなく子豚のこと。

 梅雨が明けて暑い日差しが照り付けるようになると、思い出すことがある。
 子どもの頃、屋久島の我が家では豚を飼っていた。ペットではなく、畜産として。母豚に子を産ませ、その子豚を育てて出荷するのである。

 豚は一度に12~13頭の赤ちゃんを産む。ときに死産であったり、親豚の下敷きになって命を落としたりするかわいそうな子豚もいるが、10 頭くらいが元気に育っていく。

 生まれたての子豚は本当に可愛い。しかし、この可愛い盛りにオスの子豚は、ある過酷な試練を経なければならないのだ。
 放っておくと、肉豚になったときに肉が臭くなるからだとか、肉が硬くなるからだとか、いろいろな理由があるようだ。

 私が小学校1年か2年の頃だった。梅雨明けの夏の昼下がり。屋久島で、本土よりも通常、梅雨明けが早い。夏休み前には梅雨が明ける。

 うだるような暑さのなか私が学校から帰ると、まさにその儀式が執り行われようとしていた。
 庭の椎の木陰にムシロが敷かれ、水の入った桶と三方が用意され、三方の上には奉書紙を巻いた短刀が鎮座している。
 蝉しぐれのなか、オスの子豚が白洲に引き立てられてくる。そして町奉行の沙汰を待つ。

 「そのほうの○○をトル」    (´・ω・`) ブヒッ!

という町奉行の判決が下ると、父が子豚を上四方固めに押さえ込む。トン走を図る子豚は後ろから羽交い締めにし、

 「この桜吹雪が目に入らぬか。神妙にいたせ

と印籠を渡す。いや違った、引導を渡す。印籠を渡したら、黄門さまが威張れなくなりますもんね。

 上四方固めに押さえ込まれたオスの子豚に、獣医さんがメスを入れる。「オスにメス」とは、これ如何に。
 そして獣医さんが焼酎を口に含んで子豚のアソコにぶぁっと吹きかけ消毒する。
 あ、これはウソ。実際には、ちゃんと医療用アルコールで消毒する。だが、手術そのものは麻酔無し。
 なので、子豚が断末魔の叫びを上げ、豚小屋では、その叫びを聞いた母豚が大暴れ。

 獣医さんはオスの子豚の体の中から「その2個」を取り出すと、縫合もしないで赤チンをチョンチョンとつけておしまい。

 赤チンは、こんな無粋な使い方をしてはいけない。

  「あなたが指を切ったら、あたしが赤チンを塗ったげるネ

 彼の指に彼女の指がそっと触れ、赤チンを塗って、息をふっふう。彼女の目と彼の目が絡み合い、そして……。

のような、恋の芽生えとなる小道具として使うべきなのだ。

閑話休題(それはさておき)。

 近からず遠からずといった所から、私はその施術を見ていた。子豚の手術が終わって、獣医さんが、
 
 「ああ、終わった。今度は拓弥、お前や!

と言って私の手首をつかんだときは、本当に腰が抜けた。腰が抜けると、ふにゃっとなってへたり込むのだ。

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